- 萱澤商店の成り立ち

1948年、萱澤淳作さんが糸商(産地の原料糸商社のことをこう呼ぶ)、萱澤商店を立ち上げる。もともと近辺の御所市や高田市は綿織物の大和絣や大和木綿が盛んで、手回しの靴下編機で作る靴下の製造も増えていた。そんな中、戦後のモノがない時代、靴下工場に対して、綿やナイロンの糸を染めて供給する仕事をはじめる。当時は紡績メーカーが作る糸を別注で染めたり、靴下工場の希望に添うように加工することでメーカーの期待に応えていた。染色現場や加工現場に通い、差別化された糸に仕上げることでメーカーのものづくりに寄り添う形で萱澤商店は着実に信頼を得ていた。しかし、バブル崩壊後、海外から安価な商品が流入するにつれ、大口の別注の仕事は徐々に減少し、新たな商機を見出す必要があった。

- 糸商から糸メーカーへ

2001年にのちに3代目となる萱澤有淳さんが萱澤商店に参加し、2010年にある紡績メーカーのリサイクルコットンと出会う。当時のリサイクルコットンはリサイクルと言いながらも繊維長が長いコットンの新綿を落ちわたとブレンドした糸であったり、風合いが硬かったりと決して質がよいものとは言えなかった。しかし、その糸は落ちわた100%のリサイクルコットンにも関わらず、独自の紡績機でゆっくりと撚りをかけることで独特の柔らかさを持っていた。萱澤さんはその糸を最後までリサイクルで仕上げられた技術や柔らかな風合いに惹かれ、この糸をこだわりを持ってものづくりに励むメーカーに届け、より多くの人に落ちわたが巡る循環と持続可能性に共感してもらいたいと思い、手芸糸とニット用の糸として2014年saredoを立ち上げる。

- saredoのコンセプトや想いについて

saredoは、sustainable(持続可能で)、alternative(もう一つの選択肢の)、renovation(新たな価値の再構築)、domestic(国産)の造語です。初めて出会ったリサイクルコットンの風合いをより多くの人に届けたいという思いから“落ちわたが紡ぐサステナブルな暮らし”を提案しています。
また、靴下業界には、“たかが靴下、されど靴下”という言葉があります。莫大小と書いてメリヤスと読む編み組織は伸縮性が特徴で、一見同じに見える靴下でも細部までこだわった靴下の品質は異なります。糸を届ける糸商として、昔からキチンと丁寧に作り上げてきた日本の靴下工場の期待に応えたいとも思っています。

saredoを運営するカヤザワアリアツさん、カヤザワリョウコさん
- 製品の特長について

saredoの糸は、綿を紡績される際に出る毛足が短い落ちわた100%を使用した糸で、リサイクルコットンだけど独特の柔らかさ、そして不完全だからこその奥行きを感じています。大量生産が当たり前となっている現代において、リサイクルコットンを使用した国内生産のものづくりの良さを届けられたらと思っています。2014年10月に立ち上げ、2015年、知り合いに誘われた蚤の市でsaredoの手芸糸を販売しました。その時に編み物作家さんやモノづくりの作家さん、たくさんのお客さんに喜ばれて、本当に嬉しかったことを今でも覚えています。

色は経時変化し、ダーニングにより永く愛用されたsaredoの靴下
- 今後の活動について

落ちわたが紡ぐサステナブルな暮しをより多くの人に知ってもらうために、テキスタイルの領域にも製品ラインを増やしたり、いろんな産地のメーカーさんにも糸を供給することで、いろんなモノづくりに使ってもらえたらと思っています。そして、いつか自分たちのお店も持って直接お届けできたらと思っています。

最後に、萱澤商店さんは、糸商を本業にしながらも自分たちが届けたい“落ちわたが紡ぐサステナブルな暮らし”という意味のある事業を展開されています。NISHIGUCHI KUTSUSHITAにも萱澤商店の糸は使われていて、わたしたちの“はくひとおもい”はこのように想いが詰まった糸の作り手によっても支えられています。

2022年9月には、萱澤商店の糸を使用した、ウールコットンブーツソックスが発売となります。リサイクルウールとリサイクルコットンを撚り合わせたウールらしいふくらみ、あたたかさとコットンの柔らかな靴下。また一つ“はくひとおもい”な靴下を届けることができます。世の中にモノがあふれる時代、ものを作るということは、作る意味が必要だと思います。これからも原料メーカーと協力して意味があるモノづくりを続けたいと思います。

 
インタビュー/西口 功人
写真/中村 賢人